進歩性の拒絶理由を受けてしまいました・・・
もうひっくりかえせないかも・・・
ちょっと待って!「阻害要因」は検討しました?
「阻害要因」があれば、進歩性をクリアできる可能性があります!
え・・・「阻害要因」っていかにもネガティブな言葉ですけど、なんですか??
いいえ、「阻害要因」は進歩性にとってポジティブな要素なんです!
イメージは、「毒をもって毒を制す」ような発想です。
ということで、今日のパテントまるわかり塾では、進歩性のポジティブ要素「阻害要因」についてお話しします。
ちなみに前回の内容は、こちらです。
新規性と進歩性(4)~進歩性のネガティブ要素~目次
「阻害要因」は分かり難い
「阻害要因」って、すっごくわかり難い言葉ですよね。
法律用語って、分かり難い言葉が多いんです。その中でも、特許分野では、「阻害要因」は分かり難い言葉ベスト5(ワースト5?)に選ばれそうです。
そもそも、いかにもネガティブな感じの単語じゃないですか!
私は初め、「特許の権利化を阻害する要因のこと? だったら、良くないことだよね?」と思っていました。
だから、審査基準を見て、何でポジティブに分類されているのよ?って、不思議でした。
でも、本当の意味は、「普通なら、そういった発明をしようなんて、考えない(=そういう考えをすることを阻害する)ような知識や考え方」のことです。
要は、「そんなことやったって、悪い結果になるに決まっているじゃん。やる訳ないよ!試す価値もないじゃん!」「それにも関わらず、実際にやってみたら、想像に反して、良いことが起こってビックリ!」ということです。
もちろん進歩性「あり」です。 だって、進歩性の根源は、何しろ「誰も思い付かない」ですから。
イメージは「毒をもって毒を制す」ような発想
もっと簡単なイメージで言うと、故事を使わせて頂いて、「毒をもって毒を制す」ような発想でしょうか。
本来は「毒」として認識され・そう扱われているから、絶対に「嫌なもの」なのに、使ってみたら「薬」として働くような場合です。「普通では、考えたり・絶対やらないようなことの、敢えて逆をやってみたら、うまく行った」みたいなことですね。
私が一番分かり易いと思う具体例を挙げると、食中毒の原因となる、悪名高き「ボツリヌス菌」ってありますよね。
ボツリヌス菌が作り出す毒素は、最強の猛毒であることが知られています。
にも拘わらず、ボツリヌス菌から抽出した主成分は、「ボトックス注射」として多汗症や美容などに使われ、世の中の医療に、とっても貢献しているんです!
猛毒の細菌から抽出した主成分を、「薬」として体内に注射するなんて、普通は考えないですよね?
何しろ、「食中毒」→「ボツリヌス菌」→「怖~い!」「いやだ~!」、が常識でしたから。
「普通なら、うまく行く筈が無いと考えて、そもそも、そんなことはやらない(=やることを妨げる)」というのが、まさに「阻害要因」です。
だから、それを敢えてやってみて、良い結果が得られた場合は、「普通なら、容易に思い付かなかったり・思いもよらなかった良い結果が、あなたの発明のおかげで得られて恩恵を受けることができ、産業の発達に貢献してくれた! 良くやってくれた、どうもありがとう!」=「進歩性あり」ということで、進歩性の趣旨は一貫していますね。
「阻害要因」は、進歩性の主張に使える「魔法の要素」
進歩性の拒絶理由通知がきて、「審査官の引いた公知例(引用文献と言います)同士を組み合わせると、自分の発明になっちゃうな・・・。進歩性を主張するのは厳しそうだな・・・。」ってときでも、よ~く見れば/よ~く考えれば、「阻害要因」があったりします。
そして「阻害要因」は、審査官に「うん」と言わせるパワーが強いです。例えば「その公知例の組み合わせには阻害要因があるよ!」と主張することは、「その公知例を組み合わせることに動機付けがないよ!」などというよりも、効果が高いんです。
初めから発明者が「常識的に無理そうな組み合わせを敢えてやってみたら、うまくいったんだよね」と認識している場合は、主張しやすいです。でも、そういうケースは多くないと思います。基本は「後付け」で考えていきます。
だから、進歩性の拒絶理由通知が来たら、引用文献同士を組み合わせることに「阻害要因」がないかを必ずチェックしましょう。
「阻害要因」があるかのチェックポイント
では、どういう観点で「阻害要因」があるかをチェックしたらいいのでしょうか。
審査官が論理付けの出発点として選んだ公知例のことを「主引用発明」と言い、主引用発明に組み合わせて進歩性を否定しようとする公知例や技術常識のことを「副引用発明」と言います。「主引用発明」が記載された文献を「主引用文献」と呼ぶことにします。
ひとまず、以下のうち、当てはまりそうなものがあるか?、をチェックしてみましょう。
- 主引用文献に、副引用発明との組み合わせは「しない」と書かれていたり、「ダメな例」として書かれていること
- 組み合わせると、主引用発明の目的に反してしまうこと
- 組み合わせるなんて、技術常識的に有り得ないこと
- 組み合わせると、主引用発明の機能を損なってしまうこと ・・・など
ちょっと無理そうだな~と思っても、「阻害要因」という魔法の要素が隠れているかもしれませんので、諦めないでチェックしてみてくださいね。
新規性と進歩性の第1回は、こちらです。
新規性と進歩性(1) ~入門編~