進歩性がまだいまいちわからないのですが・・・
進歩性の判断スキームは決まっています!
でも、とても難しいです・・・
今日のパテントまるわかり塾では、進歩性の判断について説明します。
目次
はじめに
前回、「進歩性」は難しい、と書きましたが、イメージするのは、そんなに難しくありません。
私はいつも、「コロンブスの卵」を思い出します(逸話自体がどこまで正しいかは知りませんが)。
当時、もちろん、「卵」も「卵は簡単に割れる」ことも、誰でも知っていました。
従って、「卵」も「卵は簡単に割れる」も、「新規性」はありません。
でも、それらを結び付けて「卵を割って、立てる」という発想は誰にも思い付かなかったのです。
だから「コロンブスの卵」は、「進歩性」があるんです。
でも、言われてみれば、「な~んだ」「そりゃ、そうだよね」「当たり前じゃん」ってことになりますよね。
ですから、「進歩性」って、「すごく高度な技術」である必要はないのです。
重要なのは、「誰にも思い浮かばなかった」ことなのです。
感覚的に言うと・・・
「進歩性がある」とは、ある公知例(公知例Aとします)と、別の技術(別の公知例Bとか、技術常識とか)を組み合わせても、「論理付けができない」ことを言います。
ここで「論理付けができない」とは、公知例Aと別の技術を組み合わせても、自分の発明が「容易に思い付かない」ことを言います。
もう少し実務的に言うと、「特許庁の審査官が、その発明が「容易に思い付く」ということを、公知の情報を組み合わせても証明することができない」ということです。
思い付くかどうかは、「その分野のプロ(「当業者」と言います)」にとってです。だから、進歩性のハードルは相当に高いです。
だから新規性との違いは、「そのものズバリが、顕わに書かれた文献は存在し無い」ということですね。
「論理付け」って、一見難しそうな言葉ですが、「容易に思い付かない」ということだと考えれば、イメージつきやすいですよね。
例えば、「赤色ボールペン」が既に存在していた時に、「青色ボールペン」を発明したら、「新規性はあり」ます。
前回説明したように、「赤色」と「青色」は、数学的にイコールではないからです。
一方、「進歩性は無い」と思われます。もし、青色インクを作る技術がとても難しいために今まで存在していなかったというなら話は別ですが、少なくとも発想としては、赤色を青色に変更するのは「容易に思い付く」範疇だからです。
でも、「書いても見えないけど、光を当てると、文字が浮かび上がるボールペン」となると、「容易に思い付く」とは言えないのではないでしょうか?このようなものを実際に作れたら、「進歩性あり」と認定されると思います。
上記では凄くシンプルな例を挙げましたが、実際には、「容易に思い付く」かどうかの判断って、すごく難しいです。
「当業者」って、そもそも架空の人物なので、「俺にとっては、そんなこと、容易に思い付くよ」という人もいるかも知れないし、「私には、とても思い付かないわ」など、本当は決めようがないですよね・・・
一応、「審査基準」というものがあり、そこで判断のスキームと判断基準を定めてはいます。それでもなお、審査官によって判断は変わってくるでしょうね。人間だから、間違えることもあるでしょうし・・・。
だからこそ、拒絶査定不服審判(出願段階で、出願人が「その拒絶判断はおかしい」と主張すること)とか、異議申立(特許登録後に、出願人以外が「その登録判断はおかしい」と主張すること)や、無効審判(現段階では、異議申立と同じようなもの、と思っていればOKです)の制度があるんですが。
なお、審査基準の進歩性のところで、「論理付け」と「動機付け」という似たような単語が出てきます。
「論理付け」は、公知例の組み合せで、理路整然と、容易にその発明が思い付く、と証明できること。
「動機付け」は、公知例に、(あまり意識しなくても、ごく自然に湧き上がる)別の公知例を組み合わせようと思う発想・一部を変更したいと思う気持ち、と覚えておけば良いでしょう。
先ほど例として挙げた、「赤色ポールペン」から「青色ボールペン」にするのは、誰もが考えそうな自然な流れなので、「進歩性はないよね」となるのです。
進歩性の判断スキーム
ここで、特許庁の審査官が進歩性を判断する具体的なスキームについて、お話しします。
ここで、
進歩性無しに働く要素 = 「ネガティブ要素」
進歩性ありに働く要素 = 「ポジティブ要素」
と呼ぶことにします。
- 明らかに論理付けが「できなければ」、待ったなしに「進歩性あり」です。 → おめでとうございます!
- 論理付けが「できたとしても」、諦めるのはまだ早いです。→ STEP2へ!
ちなみに、論理付けができない場合は、例えば以下のような場合が挙げられます。
- 自分の発明A+Bに対して、公知例Aがあった場合、Bを組み合わせることが技術常識でない。
- 自分の発明A+Bに対して、公知例A+B’があった場合、B’からBに置換することが「設計変更」と呼ぶレベルの話ではなく、「もっと画期的なすごいこと」の場合。
- 自分の発明A+B+Cに対して、公知例A+Bと公知例A+Cがあった場合、公知例A+Bと公知例A+Cを組み合わせることに動機付けがない。
- ポジティブ要素が「無ければ」、「進歩性無し」です。 → 残念でした・・・
- ポジティブ要素が「有れば」、チャンスあり! → STEP3へ!
ちなみに、ポジティブ要素は、以下の種類があります。
- 有利な効果
- 阻害要因
- 論理付けが「できる」程度のものであれば、「進歩性無し」です。 → 残念でした・・・
- 論理付けが「できない」ほど強力であれば、「進歩性あり」です。 → おめでとうございます!
なお、STEP2とSTEP3は、審査基準では1ステップで説明されています。
ネガティブ要素とポジティブ要素の詳細は、今後追々説明しますね。
強力なポジティブ要素の認定は難しい
ポジティブ要素について軽く触れますと、「ポジティブ要素」がある場合とは、出願にかかる発明が「有利な効果」がある場合が挙げられます。
「強力なポジティブ要素」がある場合とは、例えば、従来技術では予想もできない「異質な効果」がある場合、あるいは「従来技術と同質の効果」だけど、従来に比べて「顕著に有利な効果」がある場合が挙げられます。
例えば、「従来、このタイプのエンジンは「燃費が良い」という効果は知られていたが、今回の発明であるエンジンは、同じタイプのエンジンでありながら、「騒音が小さい」という効果があった!」とか、「従来から「燃費が良い」という効果が知られていたが、今回の発明は、従来エンジンよりも10倍燃費が良いという効果があった!」とかいうことですね。
しかし、効果がどの程度になれば「顕著に有利」となるかは、結局は審査官の「さじ加減」なので、良く分からないですね。そこが、進歩性を難しくしている最大のポイントです。
なお、進歩性に関しては、令和になってから最高裁の判決として、「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物事件」(最判R1.8.27)というものがあります。
この判決がまさに「進歩性」に関するものであり、特許業界で注目されている判決です。
内容については、今度機会があれば、ご紹介しますね。
他にもポジティブ要素には、「阻害要因」があります。これも判断が難しいところです。
STEP1でクリアできる特徴を、クレームのどこか(従属項など)や最低でも明細書に盛り込むことが重要であり、まさに発明者&弁理士の腕の見せ所だと思います。
こちらもご覧ください。
新規性と進歩性(1) ~入門編~ 新規性と進歩性(2) ~新規性の概念~