いまさら聞けない「先願」(2)

先願の本題に入ります。
異日出願の場合、「最先」の出願だけ、特許を受けられる可能性があります。

同日出願の取り扱いはややこしいですが、ひとまず「協議命令ってやつが来たら、必ず1件に絞って、届け出るべし」と覚えておけばOKです。

前回は、先発明主義か先願主義か、出願の日か時・分か、到達主義か発信主義か、など、イントロ的なことについて説明しました。

いまさら聞けない「先願」(1)

今日は、いよいよ先願(特許法39条)の本題です。

先願主義の趣旨

先願(主義)の趣旨については、審査基準より優れた説明はないと思いますので、抜粋引用しますと、
「特許制度は、発明の公開の代償として、特許権者に一定期間独占権を付与するものである。したがって、一発明について二以上の権利(重複特許)を認めるべきではない」という趣旨です。

もっと平たく言うと、
あなたが苦労して生み出した発明を、みんなも使えるように世の中に開示してくれた「お礼」として、しばらくの間はあなただけに特別の権利を与えます。もちろん、あなたより後に「同一」の発明の出願をした人がいても、単に二番煎じで意味は無いので、何の権利も与えませんよ。」ということですね。

実は先願が登録されない限り、「先願」の規定で後願を排除できない。

ところで審査基準の表現なんですが、注意深い人なら、ちょっと違和感があるかも知れません。

それは、「ん?「特許権者」に? 先願だから、「先の出願者」に、じゃないの?」ということです。

そうなんです。後でも説明しますが、先願といっても、先に出願すれば良いっていう訳ではなく、登録されない限り、先願の地位(すなわち、後願排除効)は、持てないのです。(なお、同日出願の場合は除きます) 

登録されて初めて力を持つ」っていう考え方って、実は特許法39条の最大のポイントかも知れません。だから、先の出願の査定が確定するまでは後願の査定ができずに審査期間が長くなってしまう、などの弊害があったので、「拡大先願」などの規定が生まれたのです。

先願の規定は2種類。異日出願か、同日出願か。

先願の規定は、すごく簡単に言うと、以下のようにまとめられます。

前回説明した通り、「先願」とか、「後願」というのは、時分を問題にするのではなく、あくまでも「日」が基準でしたね。ですから、場合分けとしては、異なった日の出願(異日出願)同日の出願(同日出願)、の2通りだけです。異日出願の場合は、いたってシンプルです。同日出願は、ややこしいです。

異日出願の取り扱い

先願の取り扱い

異日出願の場合は、「最先」の出願にだけ、特許が受けられる可能性があります。ちなみに異日出願が2件だけなら「先の」で良いのですが、「最先」とは、同一の発明の出願が3件以上あった場合には、その中で最も早い日に行われた出願、という意味です。繰り返しになりますが、同じ日の中で、「時分」が、より早い出願、という意味ではありません。同じ日なら、時分に関わらず、「同日」の扱いです。

後願の取り扱い

遅かった方の出願(後願)についての扱いは、顕わに書かれていないようなので、説明しておきます。

(1)後願が期間内に審査請求をしなかったら

自分から取下げない限り、発明内容は公開されます。しかし、結局は取下げたものと「みなされ」て、それ以上は何も起こりません。拒絶理由通知が来ることもありませんし。これは「みなし取り下げ」とか「取下げ擬制」とか呼ばれており、少しでも特許に関わったことがある人なら、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。

(2)後願が適正に審査請求されたら

(2-1)後願の特許請求の範囲が、先願の特許請求の範囲と同一の場合
 ⇒ 先願(特39条)の規定により拒絶される可能性あり。

(2-2)後願の特許請求の範囲が、先願の特許請求の範囲・明細書・図面のどこかに記載されている場合
 ⇒ 拡大先願(特29条の2)の規定により拒絶される可能性あり。

となります。
拒絶査定になると断言せずに、拒絶の可能性あり、としたのは、先願が最終的に、何らかの理由で登録されず消滅したとか、公開されなかった場合などは、後願にも権利化できるチャンスが残っているからです。

先願が消滅した理由は、先願者自身の意思かも知れないし、特許庁から拒絶されたかは別にして、自分から「権利」は要らないと主張、もしくは、特許庁から「権利」を受けるに値しないと判断された訳なので、後願者に権利化できる可能性が回ってくることは、不合理なことではありません。

あと、注意力がある人だと、「特許請求の範囲」に記載されていると、「特39条と特29条の2の、どちらにも該当するのでは?両方が適用されるの?」と疑問が湧きますよね。そうなんです。後で説明しますが、異日出願で、先願と後願で出願人が異なる場合には、特29条の2が特39条よりも優先的に適用されます。

同日出願の取り扱い

同日出願の場合は、はっきり言ってややこしいです。とりあえず、協議命令ってやつが来たら、必ず1件に絞って、届け出ろ!さもないと悲劇が起こる・・・」とだけ覚えておくだけでOKです。


以下は、同日出願の取り扱いの詳細です。受験生や実務者向けですので、興味のある方は見てくださいね。

① 特許庁長官が、同日出願の両者に対して、「両者で協議して、誰か1人(1件)だけに絞った上で、届出しなさい」と、命令します。

② もし、①の協議がうまくまとまらなかったり、何らかの事情で協議自体ができない場合、あるいは、協議がまとまって一人に絞ったけど届出を怠った場合(=協議がまとまらなかったとみなされる)、などは全員が拒絶査定という悲劇が起こります・・・。つまり、誰一人として権利化できません。

なお、一旦は同日出願が複数存在した場合でも、自分以外の人が出願を取下げたりして、結局同一発明に係る出願が自分の1件だけになったら、協議しなくても、自分だけが権利化できる可能性があります。

あと、同日出願で、片方が既に特許の登録がされてしまっている場合には、「協議ができないとき」の扱いになり、他方には、協議命令ではなく拒絶理由通知が来る、とまでは審査基準に書かれています。
(でも、それで不服がある場合には、どうするんでしょうかね?意見書とかで、何とかなる気もしないし・・・異議申立や無効審判で戦うのでしょうかね?すみません、そういう経験が無いので、実際にどうなるのか分かりません。どなたか、ご存知の方、教えて下さい!)

③ 一旦された出願がその後、自分で放棄した、自分で取下げた、特許庁からみなし取下げになった、特許庁から却下された、特許庁から拒絶査定を受けて確定した、ときには、もちろん権利化できませんし、先願の地位同一発明の後願を排除する力=後願排除効も残りません

④ ただし、②の同日出願の場合で、協議がうまくいかなかったり、協議がされなかったり、届出しなかったりで、全員に拒絶査定が確定した場合だけは、先願の地位は残ります
 このように定めた理由は、このようにしないと不公平、不平等となる可能性があるです。どういうことかというと、同日出願で拒絶された場合に、後願排除効を持てなければ、何の関係もない第三者や、拒絶になった当の本人の一方が、後日、同一発明の出願をしたら、権利化の可能性が出てきてしまいますね。これは、なんとも不合理です。だって、最先の出願が、たまたま2人、同日出願になってしまっただけで、本来はどちらの人も、最先の正当な出願者として権利化できる資格を持っていることに変わりはないのに、第三者が、後からその権利を受けることが可能なんて、「漁夫の利」みたいで、納得できないですよね。あるいは、一旦は同日出願の協議不調で、どちらにも権利化させないと特許法で決めた通りになったのに、再出願すれば同一発明でも権利化できてしまうというのも、協議制度を設けた意味がありませんよね。受験生の方は、「不公平、不平等を招致するのみならず、協議制度を設けた趣旨が蔑ろ~・・・」と、覚えてますよね?


まとめ

異日出願 → 「最先」の出願だけ、特許を受けられる可能性あり。
同日出願 → とりあえず「協議命令ってやつが来たら、必ず1件に絞って、届け出るべし」と覚えておけばOK。

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