コーヒーブレイク。特許の話は置いといて、商標の話です。
「ラーメン二郎」による商標「宅二郎」の異議申立ての話です。
目次
「ラーメン二郎」と「宅二郎」の対決の概要
みなさん、「ラーメン二郎」はご存じでしょうか。
ラーメン好きの方はもちろん、そこまでラーメンが好きでない方も、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
今日は、商標で「ラーメン二郎」ととある商標の間で、一悶着あった、という話です。
2020年 8月 13日、その商標が登録されました(登録第6280422号)。その名も・・・
「宅二郎」(指定商品・指定役務:飲食物の提供)。
商標権者は、テイクアウト・宅配専門のラーメン店として、この商標を含む「麺屋 宅二郎」を使用していたようです。
この商標が、あの「ラーメン二郎」によって異議申立てされており、2021年5月6日に異議の決定がなされました。
結論は、「商標の維持」が決定されました。つまり、「宅二郎」の勝ちでした。
「ラーメン二郎」側の主張が面白かった
「異議の決定」を見てみました。中でも、「ラーメン二郎」側の主張には、「ラーメン二郎」に関する、数々のうんちくが織り込まれており、面白かったです。
Y氏は、1968年(昭和43年)に東急東横線都立大学駅前にてラーメン店「ラーメン次郎」を創業した。1972年(昭和47年)に、慶応義塾大学三田キャンパス東南角地に移転の際、ペンキ屋のミスにより看板に「ラーメン二郎」と書かれ、そのまま屋号とした経緯がある。
異議の決定 (商標出願2020-041742)
加盟店ののれんの管理により、「二郎とはラーメンではなく、二郎という食べ物である」とまで言われ、ラーメン界で絶対無二の存在であると紹介される程の存在になった
異議の決定 (商標出願2020-041742)
フェルミ推定で、1店舗当たりの販売数を計算すると、1店舗当たり、1日で360食(人)を提供していることになる。当時、「ラーメン二郎」は40店舗であるので、1日に、14400人が「ラーメン二郎」を訪問し、14400杯のラーメンが提供されていると推定される。
異議の決定 (商標出願2020-041742)
異議申立て理由は5つ
今回、「ラーメン二郎」側により、5つの異議申立て理由が申立てられました。ちなみに「ラーメン二郎」側は、ゴシック体の「ラーメン二郎」からなる商標権などを持っています。
- 商3条1項柱書(使用意思)
- 商4条1項11号(登録商標と同一・類似)
- 商4条1項10号(周知商標と同一・類似)
- 商4条1項15号(出所混同を生ずるおそれ)
- 商4条1項19号(周知商標を不正目的で使用)
なお、「使用意思」が異議申立て理由となっているのは、商標権者が、「ラーメン二郎」側の申立てにより、現在は「宅二郎」から名称を変えているという背景があるからです。
特許庁の判断をまとめてみた
では、各異議申立て理由に対して特許庁はどう判断したのでしょうか。特許庁の判断をまとめてみました。
(1)商3条1項柱書(使用意思)
「ラーメン二郎」側が提出した証拠を見ても、使用意思を否定するに足りる事実は見いだせない、としています。
したがって、商3条1項柱書には該当せず、「宅二郎」の勝ち、としています。
(2)商4条1項11号(登録商標と同一・類似)
商4条1項11号に該当するためには、「商標が類似であること」が必要です。
ここで、特許庁は、「宅二郎」は一連一体のもの、「ラーメン二郎」は要部を「二郎」と認定し、
(a)「宅二郎」vs「ラーメン二郎」
(b)「宅二郎」vs「二郎」
の類否を、外観・称呼・観念の観点から検討しています。
(a)「宅二郎」vs「ラーメン二郎」 → 非類似
「宅二郎」vs「ラーメン二郎」 | |
外観 | 3文字vs6文字で明らかに相違。 |
称呼 | 「タクジロー」5音vs「ラーメンジロー」7音で相違。「タク」⇔「ラーメン」の差異。 |
観念 | 両者、特定の観念を生じない。 |
(b)「宅二郎」vs「二郎」 → 非類似
「宅二郎」vs「二郎」 | |
外観 | 3文字vs2文字で明らかに相違。 |
称呼 | 「タクジロー」5音vs「ジロー」3音で相違。「タク」部分で差異。 |
観念 | 「特定の観念なし」vs「第2番目の男子」で相違。 |
よって、商標非類似なので、商4条1項11号に該当しないと判断されました。
(3)商4条1項10号(周知商標と同一・類似)
(2)で検討したように、商標非類似なので、商4条1項10号に該当しないと判断されました。
また、以下の理由で、「ラーメン二郎」には周知性も認められませんでした。
・ウェブサイトや書籍の掲載回数やランキング数は決して多くない。
・周知性を示す客観的な証拠がない。
・「二郎」の文字のみが、周知な証拠なし。
(4)商4条1項15号(出所混同を生ずるおそれ)
「宅二郎」が、「ラーメン二郎」と経済的・組織的に関係している者のサービスであると需要者が誤認すれば、本号に該当します。本号は、商標類似は必須の条件ではありませんが、判断には、両者の商標の類似の程度や、「ラーメン二郎」の周知度が勘案されます。
特許庁は、そもそも「ラーメン二郎」は周知でなく、「宅二郎」と「ラーメン二郎」は非類似で別異のものであり、そのような誤認は生じないと判断しています。よって、商4条1項15号に該当しないと判断されました。
(5)商4条1項19号(周知商標を不正目的で使用)
商標非類似、かつ、不正の目的見いだせず、で、商4条1項19号に該当しないと判断されました。
まるの感想
まず、(1)使用意思は、証明するのが難しいので、覆すのは難しそうです。
特許庁の判断の通り、商標は非類似だと思うので、商標類似を必須とする(2)、(3)、(5)は、難しいのではないかな、と思います。
では、(4)商4条1項15号(出所混同を生ずるおそれ)はどうでしょうか。
私は、「ラーメン二郎」が周知でないとの判断を見たとき、「え、ほんと?」と思いました。結構みんな知っているような・・・。また、個人的な感想ですが、ラーメンで「二郎」とついていると、「ああ、あのラーメン二郎の、宅配かな?」と思っちゃいますね。「鍋二郎」に対して「宅二郎」みたいな・・・
私の感想が一般的かはわかりませんが、この部分は反論の余地があるのではないかと思いました。
今後もこの争いが続いていくのなら、「ラーメン二郎」側は、商4条1項15号で攻めていくのではないか、と予想します。不正目的が認定されれば、除斥期間もなくなるので、長期戦に持っていけますね。
ちなみに、維持決定に対しては不服申し立てできないので、別途、無効審判で、ということになりますね。ただし、同じ特許庁が審判するので、新たな証拠が出ない限り、覆すのは難しそうです。一方、無効審判を経れば、裁判所に訴えを提起できるので、特許庁とはまた違う裁判所の判断をもらえると思います。
引き続き、様子を見たいと思います。