お久しぶりです。
少し時間が経ってしまいましたが、先日寄稿した商標判例に関する記事がToreru Mediaさんで公開されています。
ご興味ある方はぜひ見てみてください!
マグアンプK事件(大阪地判平成6年2月24日・平成4年(ワ)第11250号)
さて、上の記事で「マグアンプK事件」(大阪地判平成6年2月24日)を紹介しました。
詳細は上の記事を見てくださいね。
この事件で、小分け・詰め替え・再包装した上で他人の登録商標(+類似商標)を付して再度流通させる行為は、商標権を侵害すると判示されました。
しかも「小分け等によって当該商品の品質に変化を来すおそれがあるか否かを問わず」、このような行為は一律に侵害となるというものでした。
なぜならこのような行為は、登録商標を流通の中途で剥奪抹消することにほかならず、商品標識としての機能を中途で抹殺するものだからです。
なかなかパンチが効いた言葉が使われていますね!
ローラースティッカー事件(大阪高判令和4年5月13日・令和3年(ネ)第2608号)
最近マグアンプK事件を思い出させるような事件の高裁判決がありました。
「ローラースティッカー事件」と呼ぶことにします。
<事件の概要>
事案は複雑ですが、簡単に言うと、原告の登録商標である「ローラースティッカー」との商品名で販売していた商品を、「ハンドレールステッキ」という別の名称で販売する行為は商標権侵害に当たるかを争った事件です。
これを見たとき「ローラースティッカーって何?」と思ったのですが、「ローラースティッカー」は以下のような車輪付き杖のようです。個人的には「ハンドレールステッキ」のほうがしっくりきます。
ちなみに被告は
①「ローラースティッカー」(原告の登録商標)という商品名の商品の梱包箱に付された原告の屋号の箇所の上に、被告の標章を貼り付け、
②商品本体と同梱した「ローラースティッカー使用説明書」を、「ハンドレールステッキ取扱説明書」(被告らの説明書)に差し替えて販売しました。
そこで原告は、被告が商標の剥離抹消行為を行ったと主張しました。出ました!剥離抹消!
しかし裁判所は、被告の①の行為も②の行為もそもそも「剥離抹消行為」とは認めず、商標権侵害には当たらないとしました。
①は原告の登録商標をどうかしたという訳ではないですし、②は商標的使用ではないからですね。まあ納得です。
<裁判所の判決の見どころ>
ここで、この判決の個人的な見どころをご紹介します。
裁判所は、被告の行為が剥離抹消行為かは別として、剥離抹消する行為、さらに異なる自己の標章を付す行為自体は商標権侵害とはならないと判示しています。
商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。したがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないというべきである。
令和3年(ネ)第2608号 判決文
一見「マグアンプK事件」と反対のことを言っているように思えますね。
<考察>
ここで上の判決文で言っているケースは、以下の点で「マグアンプK事件」と異なっています。
- あくまで剥離や、剥離後「自己の標章」を付す行為について述べたものであり、他人の登録商標等を付す行為について述べたものではない点
- 小分け・詰め替え・再包装の行為はない点
確かに剥離や自己の標章を付す行為は登録商と標の使用には該当しないので、商標権侵害とはならないとするのも納得です。
とはいえ、商品から登録商標を剥離した者が何ら責任を問われないのは、商標権者にとっては酷な気がしています。個人的には、剥離されたことにより出所表示機能が害されたと見ることができると思いますし。
また小分け等の品質変化が生じるような行為は行っていないので、小分け等の行為があったなら結果は変わってくるのかもしれません。
<参考>
地裁判決(大阪地判令和3年11月9日・令和2年(ワ)第3646号)はこちらです。事案の詳細は地裁判決に記載されています。