特許要件に、「不特許事由がないこと」がありました。
「不特許事由」って、新規性や進歩性がないことですよね?
いいえ、違います!
「不特許事由」がある発明とは、イメージは「特許にできないくらい(倫理的に)ヤバい発明」です。
結論から言うと・・・あまり気にしなくていいです。
目次
はじめに
今日のパテントまるわかり塾では、「特許を受けることができない発明」、俗称「不特許事由」についてお話しします。
「不特許事由」は、ざっくり言うと「特許にできないくらい(倫理的に)ヤバい」ことです。
以前、特許要件についてお話ししましたが、特許要件の1つでも違反したら、特許にはなりません。
特許を受けられる発明とは? ~特許要件について~ですから、新規性や進歩性に何も問題がなくても、不特許事由に該当したら、それだけで特許にはなりません。
多くの発明は「不特許事由」には(普通は)該当しないので、結論から言うと、あまり気にしなくていいです。(残念ながら、私は実務でこういう案件を担当したことがありません。)
なので、ここから先は、「何がヤバいの?」が気になる人だけ見てくださいね。あまり詳しくありませんので、基本的に特許審査基準をベースに、をなるべく噛み砕いて説明したいと思います。
不特許事由の概要
✔ 新規性・進歩性とは異なる
特許法に規定されている不特許事由は、条文的には1つだけで、「公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生(「公序良俗等」といいます)を害するような発明」のことです。
ここで、「新規性や進歩性違反は、不特許事由じゃないの?」という、素朴な疑問が浮かびますよね。多分、その疑問は正しいのですが、法律で区別して定めてあるので、しようがないです。苦笑
私の考えとしては、新規性や進歩性違反は、「内容が、独占的排他権を与えるに相応しいレベルに達していない」という意味での不特許事由ですが、ここでいう公序良俗等を害するものは、内容以前に、「そもそも、そんな発明をしては、人として、倫理的に駄目だよ!」ということなので、わざわざ分けているのではないかと思っています。
新規性や進歩性違反も、「不特許事由」には違いないけど、特許法の条文で規定している「不特許事由」は、「公序良俗等を害するおそれのある発明」のことだけだと思って下さい。歯切れが悪い説明でごめんなさい。
✔ 世界的にNG
公序良俗等の違反は許さないって、日本の特許法だけでなく、全世界のすべての法律の根底に流れる、基本中の基本みたいなことですね。日本での基本は、民法90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」と規定されています。
なお、公衆衛生とは、共同社会の組織的な努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進をはかる科学・技術のことです。これを害するような発明が特許にならないのは、当たり前と言えば当たり前ですよね。人間の根幹に関わるようなことなので。
法律としては、極めて重要なことを言っているんですが、実務的には重視されていないというか、そもそも、それに該当するような発明は、普通は出て来ない、というか・・・
もちろん、そんな開発を進めることを会社が認める筈がないので、この要件は、あまり気にすることもないかも知れません。意図的にやっているなら、明らかなコンプラ違反ですよね。
ただ、意図せず偶然に、そのような発明が生まれてしまった場合もあるかも知れません。そんな場合でも、特許にはなりませんよ、ということです。もちろん、いくら完成度が高くても、です。
公序良俗等の判断は緩め
公序良俗等を害するに該当するか否かは、結構難しい話です。道徳観などは時代とともに変遷するし、人によって考え方も異なるからです。
だから、審査基準では、該当するかどうかの判断は「抑制的に行う」とか、害することが「明らかな場合に限り」該当すると判断するとか、公序良俗等を害する「可能性がある」だけでは拒絶してはいけない、などと規定しています。あまり厳密な判断もできないので、「疑わしきは罰せず」というところですね。今の価値観だと拙いけど、世の中の流れで、今後価値観が変わりかねないような発明も、該当とはしていない感じです。
不特許事由の「ヤバい」中身
公序良俗等に違反する発明の具体例を挙げよ、と言われても、難しいですよね~。
一言でいうと、「それって、人としてどうなのよ! 常識的に考えて、倫理的にヤバイんじゃない?」と誰もが感じるものが該当すると思いますが。
ちなみに、審査基準の具体例を見てみますと、不特許事由に該当する発明の例としては、
・遺伝子操作により得られたヒト自体
・専ら人を残虐に殺戮することのみに使用する方法
まあ、誰もが、「それって、ヤバいんじゃない?」と感じるような世界ですよね。
公序良俗っていうと、真っ先に「わいせつ」関係が頭に浮かぶのですが、例として書かれていないところをみると、非該当なんですかね?笑
不特許事由に該当しない発明の例としては、
・毒薬
・爆薬
・副作用のある抗がん剤
・紙幣にパンチ孔を設ける装置
「へ~、そうなんだ・・・」と感じるものもあるのではないかと。なぜこれらが該当しないかというと、「一見、悪そうだけど、必ずしも悪い使い方ばかりとは限らないんじゃない? 後で、(別の)良い使用方法が見付かってから特許を保護しようとしても遅いのでは?」という理由からでしょうね。
昔は、「紙幣偽造装置」などが該当する例とされていましたが、今は違うのでしょうかね?「紙幣にパンチ孔を設ける装置」が該当しない例に入っていますしね・・・(どなたか詳しい方は教えてください)
なお、法律は国によって異なる場合も多いので、単に日本の法令によって「使用禁止」とされていることのみを理由として、不特許事由に該当すると判断してはならない、とも審査基準に書いてあります。
該当しない例として、
・測位精度を向上させる電波を発する位置情報送信装置
・ビル内において、人のストレス度を所定のセンサで測定し、ストレス度が一定の値以下であるときには、28℃超の室温となるように運転することで節電化を図る空気環境調整方法
が挙げられており、いずれも、日本ではそういう使用方法は禁止されていても、単にそのことを理由として、不特許事由に該当すると判断してはならない、としています。