いまさら聞けない「先願」(1)

特許法の大物条文、先願(特許法39条)について、お話しします。
先願は、「先に出願した者が勝ち」の考え方です。

今日のパテントまるわかり塾では、先願(特許法39条)について説明します。先願は、特許の基本の「き」です。

今日は、取り敢えず、先願のイントロです。

「先願主義」に対する「先発明主義」

先願って、文字通り「他の人より、先に出願する・した」ということですが、「先願主義」を略したものです。先願主義は、要は、先に出願した者が勝ちです。

「先願主義」に対する言葉として、「先発明主義」があります。「先発明主義」は、要は、先に発明を完成させた者が勝ちです。

例えば、他人より先に自分が発明イを完成させていたなら、他人が自分よりも先に出願していたとしても、「自分の勝ち」となります。

日本では、大正時代に「先発明主義」から「先願主義」に切り替えたようですが、米国はかなり最近(2013年頃)まで、「先発明主義」を取っていました。そんなに最近まで「先発明主義」を採用していたのは、世界でも米国だけかと思いますが、何せ「大国」なので、対応を無視する訳にはいきませんでした。

「先発明主義」は、特許が発明に関するものである以上、先に「発明」した者に権利を与えるのは、合理的な考え方なのかも知れません。しかしながら、「いつ発明したか?」を、第三者に証明するのって想像するだけで難しそうですよね?基本的には実験ノートなどの記録に基づいて証明するようですが、文書って、悪いこと(改ざん等)をしようと思えば、いくらでも出来てしまう気もするし・・・
しかも、「その研究をしていた期間」ではなく、その発明が「完成した日」が重要となると、特定するのも余計にややこしそうです。

私が研究開発者だった時に上司から聞いたのですが、昔は、米国対応のために、実験ノートをしっかりと記録し、毎日、そのノートに日付を記録し、自分で署名をし、かつ、その署名の隣の部分に、第三者(その研究に直接携わっていない人)からも確認のための署名してもらう、という非常に煩わしいことをしていたようです。今でも、会社から支給される実験ノートには、そのような署名をする欄があるものが多いですが、実際に署名している人って、いるのかな?と思います。実務的な意味は、既になくなっていると思いますし、少なくとも日本に関しては、「俺の方が先に発明したんだぞ、見ろ、この実験ノートの日付を!」とか言っても、特許法的には何の意味もありません・・・

ただ、共同開発などで、相手の企業などと、成果の帰属などで揉めた時に、「当社では、●●の時点で、既にそれをやっていた」と証明するためには使えるかも知れませんが。もっとも、不正が出来ないように、正式には、コピーを取って、公証役場で「技術封印」という作業が必要です。いつか機会があれば、そのあたりについても、ご説明します。

「先願主義」の概要

一方の「先願主義」は、上述したように、先に出願した者が勝ち、つまり特許庁に先に「出願」した者に権利が与えられるという考え方です。

例えば、さきほどの事例で、他人より先に自分が発明イを完成させていたとしても、他人が自分よりも先に出願していたら、自分の負け」なのです。

「発明を誰が先にしたか?」に関しては、正しく反映されないかも知れませんが、不正は出来ないし、証明も簡単なので、そこが争いの種になることもない、良い制度だと思います。「先に発明した者ではなく、先に出願した者に権利を与える」というルールを予め決めておけば、誰かが不利になる訳でもありませんしね。

なお、「先に」出願というのは、「日」を意味しており、「時分」までは問題にしておりません。同じ日の、10時20分に出願した出願Aと、13時40分に出願した出願Bとでは、どちらが先願ということはありません。したがって、出願Bは出願Aに対して不利な扱いを受けることなく、あくまでも「同日出願」として対等に扱われます。実際に、特許法の条文も、同「日」か異「日」かで、明確に分けて規定しております。

一方、新規性などの公知かどうかの判断は、「日」ではなく「時分」まで気にします。新規性の条文(特29条)でも「出願日前」に公知、とは書かれておらず、「出願」に公知、と規定されています。要するに、出願時刻よりも1分でも早く、同じ発明の学会発表が行われたとしたら、新規性は無くなりますので、ご注意下さい。(まあ、そんなことが問題になるのは、すごい低い確率かも知れませんが・・・)

いつをもって出願日になるのか?の問題

「先願」は出願「日」が問題となる、という話でしたが、では「いつをもって出願日?」という疑問が生じます。これについては、今はネットの発達した時代なので、特許庁に願書や明細書などがネットのオンラインで届いた日です。

一方、郵送で紙の出願書類(願書等)を送る場合には、特許庁に「到着した日」ではなく、郵便局の窓口に出した日や、「消印」の日付になります(発信主義っていいます)。このあたりは、審査基準ではなく、条文レベルで規定されています。郵便物が、何日掛かって特許庁に届くかは、住んでいる地域によっても変わってきますので、期日が重要な書類については「発信主義」というのは、公平な制度だと思います。

つまり、出願書類がオンラインで届いた日、又は出願書類の消印の日が、出願日となります。
なお、これは「完全な出願書類」が提出された場合であり、提出したのが「不完全な出願書類」であった場合は、出願日の認定はもっと複雑になります。「不完全な出願書類」とは、願書に明細書が添付されていなかったりする場合です。普通はあんまり考えられないですね。このような場合は、基本は、不完全な出願書類を完全にした(補完した)日が、出願日となると考えてOKです。

まとめ

・先願は、「先に出願した者が勝ち」の考え方

・先に出願したかは、あくまで出願「」で決まる。

・出願日は、完全な出願書類がオンラインで届いた日、又は完全な出願書類の消印の日

拡大先願の話は、こちらをご覧ください。

「拡大先願」とは?(1) 「拡大先願」とは?(2)

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