2022/4/1からマルチマルチが禁止されます

はじめに

2022年4月1日から、マルチマルチクレームが禁止されます(特許法施行規則及び実用新案法施行規則の一部を改正する省令(令和4年2月25日経済産業省令10号))。マルチクレームは引き続き使用することができます。

マルチクレーム、マルチマルチクレームとは?

マルチクレーム、マルチマルチクレームとは、例えばこのようなクレームです。

【請求項1】Aを備える装置。

【請求項2】Bをさらに備える請求項1に記載の装置。

【請求項3】Cをさらに備える請求項1又は2に記載の装置。←マルチクレーム

【請求項4】Dをさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。←マルチマルチクレーム

【請求項5】Dがdである請求項4に記載の装置。←マルチマルチクレームを引用するクレーム

 マルチやマルチマルチは、クレーム数を減らして料金を安くするための手段でした。

 驚くべきことに、実質的な請求項の数が1000以上になる出願が約5%もあるようです。

4月からマルチマルチはNGになります(マルチはOK)

4月以降に出願されたマルチマルチームには、拒絶理由が通知されます(委任省令要件違反:特許法第36条第6項第4号)。

マルチマルチクレームは、実体審査(新規性・進歩性等の審査)の対象外となります。

マルチマルチクレームを引用するクレームも、実体審査の対象外となります。

ちなみに単一性違反の請求項も、実体審査の対象外となります。

上の例でいえば、請求項1は最初の審査から新規性・進歩性を見てもらえます

しかしマルチマルチクレームである請求項4は、最初の審査では新規性・進歩性を見てもらえません

またマルチマルチを引用する請求項5も、最初の審査では新規性・進歩性を見てもらえません

最初の拒絶理由通知(OA)ではマルチマルチクレームの特徴自体に新規性・進歩性があるかがわからないので、請求項1では新規性・進歩性がないと認定された時に対応策を立てづらくなりますね。

マルチマルチ解消後に最後のOAがくるの?!

特許庁のHPでは、マルチマルチ解消後の拒絶理由として、以下のように記載されています。

委任省令要件違反の拒絶理由通知への応答で、マルチマルチクレームを解消する補正がされ、審査をすることが必要になった結果、通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する場合には、最後の拒絶理由通知とします。

特許庁HP「マルチマルチクレームの制限について」

最後の拒絶理由通知(OA)がくると、補正の要件が一気に厳しくなります。

マルチマルチがあることで、実体審査開始後にいきなり最後のOAがくるなんて、少し厳しすぎるのではないかと思いますよね。

「マルチマルチクレームを解消する補正がされ、審査をすることが必要になった結果、通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する場合」なので、あまりないケースかと思います。

問題となるのはマルチマルチクレームに記載不備(不明確など)があった場合くらいかと思われます。

例えば以下のケースです。

なお、マルチマルチクレームを解消したクレームに新規性・進歩性違反があった場合は、引用先の請求項1に対しても新規性・進歩性違反が通知されているはずです。

請求項1は最初から審査されていますので、マルチマルチが解消したことにより請求項4にだけ新規性・進歩性違反が生じるケースがあるとは考えにくいです。たぶん。。

外国ではどうか?

米国、韓国、中国はマルチマルチクレームを禁止しています。我が国出願人が海外に出願する場合の出願先の大部分(約73%)がマルチマルチ制限国のようです。

米国韓国中国欧州PCT
マルチ
(※追加料金あり)
マルチマルチ
(※一部例外有)

PCT出願の場合は、国際調査と国際予備審査の対象にマルチマルチクレームが含まれるようです。

また欧州はマルチマルチクレームが認められています。

マルチマルチクレームがOKな欧州に出願することが分かっている場合は、国内出願から付記にマルチマルチクレームを記載しておくのがよいのかなあと個人的に思います。

参考

特にマルチマルチクレーム制限について(説明資料)(PDF:887KB)を参考にしました。

追記(2022/3/31 23:15)

(1)説明不足だったため補足します。

「なお、マルチマルチクレームを解消したクレームに新規性・進歩性違反があった場合は、引用先の請求項1に対しても新規性・進歩性違反が通知されているはずです。」と記載しましたが、マルチマルチがなくても最後のOAがくるようなケースは、現行通り最後の拒絶理由が通知されるものと思います。

しかしこれはもともと最後扱いだったため、マルチマルチがあったから即座に最後のOAになったわけではない、と理解しています。

(2)問題となるケースの追加

マルチマルチが「実質的に」起因して最後のOAになった、というケースを追加します。

上述の通り、マルチマルチクレームは審査対象から外されます。したがって請求項4の特徴に進歩性があるかもしれないのに、又は補正のヒント(引例)が最初のOAでわかったかもしれないのに、請求項4に対する審査の機会が一回奪われることになります。

例えば請求項1を補正するヒントをマルチマルチ分だけ得られないまま補正をし、マルチマルチに対して最初に来るはずだった引例で「最後の拒絶理由」が打たれるというケースは、マルチマルチが「実質的に」起因して最後のOAになった、というケースかと思います。

いずれにしろ、「マルチマルチクレームは、審査が始まる前に解消しましょう」ということになりますね^^:

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