明けましておめでとうございます。久しぶりの真面目なブログです。
最近、国内優先権に関連する判例が気になって調べていたので、今日は国内優先権についてまとめました。
目次
国内優先権とは
「国内優先権とはなんぞや?」という方は、こちらの図解がわかりやすいので、参考にしてください。
先の出願の発明を含めて包括的な発明として、優先権を主張して出願した場合(=後の出願)、先の出願と重複する部分については、新規性・進歩性等の判断基準が「先の出願時」になるのですね。
基本的な発明と改良発明とを包括的にまとめて1出願にできるため、管理も楽になります。
国内優先権の類型
国内優先権は、様々な場面で使われています。では一体どういう場合に使われるのでしょうか?国内優先権には5つの類型があると言われています。
ざっとまとめてみました。最後の項目は、各類型が使えるかどうかの個人的な評価です。
類型 | 概要 | 有効な場合 | 留意点 | 個人的な評価 |
1. 実施例補充型 | 基礎クレームを広く記載し、その後に基礎クレームにカバーされる新たな実施例を後の出願に含ませる。 | 判例によって立場が異なるため、この類型がどういう場合に有効かは不明 | ー | ? |
2. 上位概念抽出型 | 下位概念クレームの複数出願を基礎にして、これらをまとめた上位概念のクレームを後の出願のクレームとして出願する。 | (先の出願に含まれる実施例が豊富な場合は有効?) | 上位概念クレーム全体に優先権が与えられるわけではない。 中間引例によっては上位概念クレームが拒絶される。 | △ |
3. 発明の単一性利用型 | 基礎クレームと別のクレームを後の出願でまとめる。 | 基礎クレームと別のクレームとの差が小さい場合は有効。 | 基礎クレームと別のクレームとの差が大きい場合は単一性違反になることがある。 | 〇 |
4. 記載不備解消型 | 誤記や不明瞭な記載を解消するために出願する。 | 補正すると新規事項追加になってしまう場合に有効。 | 軽微な訂正でしか使えない。 ∵記載不備が深刻なら、そもそも優先権の効果は得られない。 | × |
5. 早期審査利用型 | 基礎出願に対して早期審査をかけ、基礎出願の審査状況に応じて後の出願のクレームを固める。 | 審査官の審査を見ながら確実に権利化を図りたい場合に有効。審査の機会を増やせる。 | ー | 〇 |
1. 実施例補充型
実施例補充型は、基礎クレームを広く記載し、その後に基礎クレームにカバーされる新たな実施例を優先権出願に含ませる類型です。
国内優先権というと、この類型がよく利用されると思われがちですが、実はクセモノです。
この類型で優先権の効果を認められた判例もあれば、認められなかった判例もあります。判例によって立場が異なるため、今のところこの類型がどういう場合に有効かを断言できないのです。
これについては、次回のブログで紹介したいと思います。
2. 上位概念抽出型
上位概念抽出型は、下位概念クレームの複数出願を基礎にして、これらをまとめた上位概念のクレームを優先権出願のクレームとして出願する類型です。
注意したいのは、あくまで部分優先であり、上位概念クレーム全体にわたって優先権の効果が得られるわけではないということです。したがって、優先権出願に追加された実施例a3の発明が、先の出願から優先権出願までの間に、開示されたり、他人によって出願されていれば、上位概念クレームは拒絶されます。
ただ先の出願に含まれる実施例が豊富な場合には、この類型は有効なのかなと思います。
3. 発明の単一性利用型
発明の単一性利用型は、基礎クレームと別のクレームを優先権出願でまとめる類型です。
基礎クレームと後のクレームとの差が小さい場合は、基礎クレームで後のクレームが先願違反(特39条)で拒絶されてしますが、この類型を利用すると、それを回避できます。「差が小さい」場合とは、「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない」場合ですね。
一方で、 基礎クレームと後のクレームとの差が大きい場合は単一性違反になることがあるため、注意が必要です。
4. 記載不備解消型
記載不備解消型は、 誤記や不明瞭な記載を解消するために出願する類型です。
記載不備を解消したいけれど、先の出願で補正すると新規事項追加になってしまうような場合に有効です。
しかし軽微な訂正でしか使えません。記載不備が深刻なら、そもそも優先権の効果は得られないからです。そういう意味で、あまり意義はないのかなと個人的には思っています。
5. 早期審査利用型
早期審査利用型は、基礎出願に対して早期審査をかけ、基礎出願の審査状況に応じて後の出願のクレームを固める類型です。
審査官の審査を見ながら確実に権利化を図りたい場合に有効です。1つの出願に対して拒絶理由通知が来る回数は限られているので、単純に審査の機会を増やせます。 国内優先権は先の出願から1年以内にしなければならないので、先の出願には早期審査をかけます。
重要な案件は積極的に使っていきたいですね。
次回は…
国内優先権というと、弁理士試験では頻出の制度ですが、実務ではそこまで利用されていないのかな、という印象です。
というのも、実施例補充型で優先権の効果を認めなかった有名な判例があり、国内優先権の制度自体に疑問を持っている人が少なくないのかなと思います。私もその一人です。
次回は実施例補充型の判例をまとめてみたいと思います!
参考
・吉藤 幸朔 特許法概説〔第13版〕 356-357頁
・柴田 和雄 「国内優先権〔人口乳首事件〕」 特許判例百選〔第5版〕 152-153頁
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